ま え が き

社会人になると学生時代になかった変な掟がいっぱいある。この掟たちはいわゆる就業規則といわれるカッチリしたものとは違い、人事部から指導があるわけでもなく、教本があるわけでもない。自ら切り開いて習得していかねばならないのだ。本シリーズではインターン前もしくは就職前の学生を対象にこれらの変な掟たちを解説していきたい。
掟 其の二十五  「 新歓コンパの仕切り 中編 」
掟 其の二十六  「 新歓コンパの仕切り 後編 」
掟 其の二十七  「 もんたインパクト 前編 」
掟 其の二十八  「 もんたインパクト 後編 」  New!

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掟 其の二十五 「 新歓コンパの仕切り 中編 」
二年目幹事君は多いに悩む。とりあえず本部長最優先で、後の上司の要望は一つづつ取り入れるということで、方針を固めた。
まず日程は「来週の水曜」でfixされた。幹事君は次長に速攻謝罪。続いてエリアだが、日比谷線、東京駅、神田、新宿とみんなから口々に勝手なことを言われた幹事君はさながら西村京太郎サスペンス「L特急踊り子号殺人事件」に取り組む十津川警部の気分だ。「10時26分に湯河原駅で下りた容疑者は事前に止めてあった赤いオープンカーに飛び乗り、錦ヶ浦へは12分。そこで被害者を殺し、今度は伊東線に乗り込み、何食わぬ顔で踊り子の指定席に戻ってくるという寸法です。隣にいた亀井君は長いトイレだろうぐらいに思ってしまったそうです。タハーッ!」って感じ。とにかく幹事君は十津川のようにごにょごにょ考えるのはサックリやめて、半ば強引に、「職場の近く」ということで大手町に決めてしまいました。しかし、若干東京駅寄りの大手町2丁目にしたあたりが幹事君のひよりを感じ取れることができ、少し微笑ましいです。ひとまず幹事君は大手町のオシャレ居酒屋に決定しました。ここなら神田の「こっこちゃん」も徒歩7〜8分で許容範囲のハズ。
さて、次にお料理のコースとお酒の準備です。焼酎の大好きな本部長、一滴もお酒が飲めない統括部長、酒癖の悪い次長、幹事君の頭を色んな記憶がよぎります。そして、そんな幹事君が必ず思い出す悲しい記憶がニャッポロビール事件です。
幹事君の会社は食品メーカー。食品メーカーが原料(小麦とか大豆とかコーン)を加工する際に出てくる原料カスは、実はビールメーカーにとてもいい値で売ることができます。つまりビールメーカーは上客なのです。特にニャッポロビールと当社は30年来のお付き合いで大の仲良しこよし。でも若干23歳の幹事君にそんな高度な企業閥を理解しろというのが無理な話。夏の納会コンパの時、シューパードリャイを手配した幹事君は課長にボコボコにされたのでした。今回はニャッポロを確実に注文。また一歩、企業戦士に近づく幹事君なのでした。 つづく・・
掟 其の二十六 に続く


掟 其の二十六 「 新歓コンパの仕切り 後編 」
運命の水曜日がやってくる。集合時間は結局18:00に設定した。幹事君は先に現場入り。何故なら最初の難関「席次」があるからだ。事業本部、総勢50名が入り乱れる宴会なだけに非常に難しいのだ。上座、下座は当たり前。キレイドコロの絶妙な配置やら、便所への導線やら、考えることが異常に多いのだ。そこで幹事君はウルトラC、クジ引きで席決め攻撃に出た。これは、かなり一か八かの賭けだったが、取締役本部長の「おっほ!クジ引き、面白いアイデアだね。」の鶴の一声で難なくクリア!いぇーい!みんな次々、自分の番号へ座っていく。こういう日に限って残業しちゃう数名を残して宴は始まる。
幹事は司会も兼ねる。「えぇ〜本日は株式会社ミキャキャ 加工食品事業本部の新入社員歓迎会にお越しいただきまして誠にありがとうございます。まずは戸手茂 江頼(トテモ エライ)本部長から一言いただきます。」本部長の長い一言が終わり、めいめいビールを注ぎあう。続いて統括部長の長い乾杯、そしてやっとご歓談タイムにうつり、幹事君は次のフェーズに移る。
それはクジ引きで適当に配置されてしまったキレイドコロの再配置である。ニコニコの業務係長から派遣のエリちゃんを取り上げ本部長の左へ。端っこにくっついてしまった女子2人を速攻分断、部長の横へ。再配置を一通り終えると、新人一言タイム。事前にこいつらには「絶対イッキしろ!」とキツい指令。ほっぺの赤いカカシのような青年が目をピロピロさせながらビールを飲み干す。手の平まで真っ赤になってやがる。いぇーい!
カカシ君は飲み干すのにいっぱいいっぱいで自己紹介は散々。「・・・カカシです。・・東北大学の・・ああ、こんな感じでいいんですか?お願いにします。(涙)」と意味不明なことを口走ってた。本部長の冷淡な反応が痛い・・。カカシ君、もしかしたら近日中に君は故郷の近くに戻れるかもしれんぞ・・。とにかく宴は順調に進み、20:15お開きとなった。これなら茨城県取手市在住の担当部長も大満足。全ての人のニーズを満たすことのできた幹事君。やりとげた感でいっぱい!でも、夜は長い。これから二次会の仕切りが待っているのだ。それでは二次会の話はまたの別の機会に。
掟 其の二十七 に続く


掟 其の二十七 「 もんたインパクト 前編 」
筆者がいた企業が大手食品メーカーだったということは既にこれまでの掟で何度も伝えたとおりだが、食品メーカーに限らず消費者と接点を持っている会社は大体「お客様相談センター」というものを持っている。殆どの加工食品は裏っかえしにしてみると成分表があり、その横にコッソリ0120-から始まるフリーダイヤルが載っている。汚れのあるものは変えますっていうアレだ。うちの会社の場合、この0120の先には契約社員のおばちゃん達が常時6名ぐらいいてお客さんの対応をしている。電話がトゥルっと鳴るとテレクラマスター並みの速さで受話器をとる。0.01秒の差で他のおばちゃんに仕事をとられてしまうこの静かな戦場で新入社員は必ず5日間研修をするのだ。ここにいると世の中にイカれたヤツが相当いることがわかって面白い。
例えば年の頃50代前半と思われるおばはんから「ビタミンBをね、いつもの倍飲んだらお尿が妙に黄色いのよぅ。これって何だかわかる?」とか言われたりする。「オニョウがミョウ」とか言ってる時点でかなり受けるヤツだが、こんな訳わかんない質問にもサポートおばちゃんはちゃんと答えてあげるのだ。「一般的にビタミンB2を大量に摂取しますとね、尿の色素を形成するビリルビンの分泌が増えるんですよ。特に問題はないので大丈夫ですよ。」と優しく語りかけてくれる。まるで、命の110番状態だ。
他にも「イトーヨーカドーの丸亀店のセールの日はいつですか?」とかマジで聞いてくる。そんなのイトーヨーカドーに聞いてくれよ!あとは「社長の父ですが、あんたんとこの工場の騒音がうるさくて妻(つまり社長の母??)がノイローゼ気味です!」とか。ちなみに社長のお父上は昭和61年に他界されてまする。
まー、他にも上げたらキリがないんだけど、本当、1回頭ん中ほじくって見てみたいようなヤツから次々電話がかかってきて、5日やる分には結構面白い。
そんなある日、その事件は突然起きた。木曜日の午後1時を少し回った頃だと思う。いきなりお客様相談センターの電話が6台いっぺんに鳴り始めた。続いて会社の代表番号にも物凄い着信の嵐!な・なんだ〜??何が起きたんだ〜。切っても切っても鳴り止まない。
つづく・・
掟 其の二十八 に続く


掟 其の二十八 「 もんたインパクト 後編 」
あまりに電話が鳴るので、筆者も思わず受話器をとる。すると向こう側から鼻息と一緒に40代後半と思われるおばはんがまくしたててきた。「さっき、みのさんが言ってた梅肉エキスで臓器をキレイに!梅酢の効果を最大限に生かす工夫んとこ、宅急便が来て聞こえなかったのよ。あんたんとこ食品メーカーでしょ。どうなのよ!」と出だしから怒っている。しかも、少し錯乱気味。ハッキリ言って事態が飲み込めないまま「落ち着いてお話ください。」と言ったところ「おもいっきりテレビよ。梅よ〜!」とまた叫ばれた。「梅」が「産め」に聞こえて筆者は益々困惑。しかもうちは食品メーカーだけど梅干売ってないし・・。すぐに宣伝部が日本テレビに連絡をとって、「思いっきりテレビ」の今日の放送分がバイク便で送られてきた。はっきり言って大事だ。
みんなでビデオの中身を確認。医学博士が「梅肉エキスで血液サラサラ、内臓の不純物が尿で出ます。内臓の入口と出口を強化。尿漏れが減り、物忘れも減ります・・・。」 「思いっきりテレビ」をこんなに真剣に見たのは生まれて初めてだが、意外と面白い。もんたの司会と目線が絶妙だ。おばはんでなくても洗脳されちまうよ。はっきし言って、筆者も梅肉エキス欲しくなったもん!とにかく事態がわかったので、梅肉、梅干リサーチ班が急遽結成され、うちにかかってきた電話を次々、ぢょうやにふりはじめた。多分、ぢょうやも大変なことになってるんだろうな〜。
とにかく夕方17:00ごろには沈静化されたが、6人のおばちゃん達はまるで、ハンバーガーヒルから基地に帰還した海兵隊員みたいになっていた。 テレビはやっぱ凄い。もんたはもっと凄い。これ以降うちの会社ではこの出来事を「もんたインパクト」と名づけて怖れている。年に数回起きる「もんたインパクト」は、偶然昼休みに「思いっきりテレビ」を観賞していた中年女性を、日テレからのバイク便が届くまでの僅かな間だけ、脚光を浴びせるという副産物まで生み出した。我が社への影響は甚大。とにかく、めでたし、めでたし。
掟 其の二十九 に続く